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東京高等裁判所 平成11年(行コ)47号 判決 1999年8月30日

控訴人

中山浩夫

右訴訟代理人弁護士

宮崎好廣

被控訴人

四谷税務署長 吉原利弘

右指定代理人

小原一人

松原行宏

佐々木喜一

佐藤謙一

古瀬英則

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、平成七年二月二八日付けでした次の各処分を取り消す。

(一) 控訴人の平成元年分の所得税の更正処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)

(二) 控訴人の平成二年分ないし平成五年分の所得税の各更正処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)及び各重加算税賦課決定処分(同右)

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件は、控訴人が平成元年分ないし平成五年分(本件係争年度)の所得税についてした申告には、貸付金の利息及び損害金に係る雑所得が計上されていないことなどを理由として、被控訴人が本件係争各年分の所得税の各更正及び各重加算税賦課決定処分をしたのに対し、控訴人が右各処分のうち、審査裁決により全部取り消された平成元年分の所得税の重加算税賦課決定処分を除くその余の各処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を不服として、その取消しを求めた事案である。

その余の事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりである。

原審は、控訴人の本件請求をすべて棄却した。

当審における争点も、原審と同様であって、<1>本件係争各年に支払われた本件賃料のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入される額はいくらとなるか、<2>控訴人が貴家(貴家サトエ)に対して給与を支払った事実があるか、あるとしてそれが事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用といえるか、<3>本件建物に備えられているクーラーの購入代金が事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用といえるか、<4>本件貸金利息等が雑所得として課税の対象となるか、なるとしたらその金額はいくらか、<5>本件貸金利息等に係る所得を申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件があるか、にある。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人のした本件各更正処分及び本件決定処分はいずれも適法であり、控訴人の本件請求はすべて理由がないものと判断する。その理由については、次のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりである。

一  争点<1>(本件賃料と必要経費)について

控訴人は、本件建物はその全体が質屋営業の設備であって、その支払賃料は原則的に質屋営業の収入を得るために直接必要な経費であって、いわゆる家事関連費ではなく、また、仮に右支払賃料が家事関連費であるとしても、家事関連費として右支払賃料から控除すべきものは、本件建物の二階及び一階の台所、浴室、トイレとその前の廊下部分に対応する支払賃料に限られるべきであり、その割合は面積割合だけでなく、金銭的評価割合をも考慮すれば、右支払賃料の一〇パーセントを上回ることはない旨主張する。

しかしながら、賃借している建物が事業用のみならず、家事用としても供されている場合、支払賃料の全額を事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができないことは当然であり、そして、家事関連費としての支払賃料が事業所得の金額の計算上必要経費として認められるためには、当該費用が事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、それが事業の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならず、そのためには、事業専用割合を求め、自宅兼事業所全体に占めるその面積割合によって支払賃料を按分して必要経費となる金額を算出すべきであり、右のような内容の算出方法は合理的なものとして採用されるべきである(原判決判示のとおり)。被控訴人は、右の方法に従い、本件建物の面積比から事業専用割合(四三・一八パーセント)を求め、支払賃料に右割合を乗じて事業所得の金額の計算上必要経費となる支払賃料を算出したものであって、被控訴人の行った右の措置は合理的なものとして是認されるべきであり、同措置に違法はない。

二  争点<4>(本件貸金利息等と雑所得)について

控訴人は、現金主義を規定した法(所得税法)六七条の二の条項や現金主義による計上方法を容認している課税実務をも考慮すると、控訴人が貸し付けた金員のうち利息損害金はもとより元金の大部分の返済も受けていない本件においては、現金主義による収入金額の計上が認められるべきである旨主張する。

しかしながら、法は、現実に収入がなくても、一定の収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとみて、その収入をその権利の確定した時期の属する年分の収入金額に計上して課税するという建前(権利確定主義)を採用しているものと解され、したがって、たとえ本件貸金利息等が未収であったとしても、控訴人の雑所得の金額の計算上収入金額とされるべきであることは、原判決判示のとおりである。右法六七条の二は、小規模な事業者の場合には現金主義が実情に合致することもあることを考慮して、例外的に、青色申告の承認を受けていることを条件に、現金主義を採用することを認めた規定であるが、控訴人は平成元年以降の所得税の青色申告の承認を取り消されているものである上、本件貸金利息等は雑所得に該当するものであるから、本件において現金主義の適用を認めることはできない(原判決判示のとおり)。なお、控訴人は、本件貸付に関し、債務者等との間で更正証書や念書等を取り交わした上、根抵当権の設定を受けるなど、本件貸付の金債権確保のための積極的な方策を講じている(乙二ないし四、一三ないし二三)のであって、本件貸金利息等の収入実現の可能性は高度であるともいえる。

三  争点<5>(本件重加算税の賦課決定処分の適法性)について

控訴人は、<1>第三者に対して金銭の貸付を継続的に行ってきた事実はない、<2>利息と損害の区別も知らない程貸付業務については素人である、<3>税務調査の際、本件貸付が税務上問題となるとの意識が全くなかったため本件貸付金を自主的に申告しなかった、ことなどを理由として、本件係争各年分に係る確定申告において、本件貸金利息等に係る分の申告をしなかったからといって、そのことが、通則法六八条に定める重加算税の賦課決定処分の要件を具備することになるものではない旨主張する。

しかしながら、控訴人が、第三者に対して金銭の貸付を継続的に行ってきたこと、金銭の貸付に関する法律知識を十分に有する者であることは、原判決判示のとおりであり、税務調査の際、控訴人が本件貸付の事実を容易に明らかにしようとしなかった態度等(原判決判示のとおり)をも併せ考慮すると、控訴人は、当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からも窺い得る特段の行動をしたものと認められるのであって、したがって、控訴人に対し、本件重加算税を賦課したことは適法であるというべきである。

以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(平成一一年六月二八日弁論終結)

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)

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